教育から共育へ?ーXD Exhibition 2014「 デザイン教育のこれから」を聞いてきた。
去年の4月に始めたブログを三回だけ更新してずっと放置していました。
先日、二子玉川で開催されていたXD Exhibition 2014で行われたトークセッション「デザイン教育のこれから」を聞いてきました。ものづくり,ソーシャルデザイン,教育のそれぞれの領域で活動されている方の考えるこれからのデザインについて興味深い話を色々と聞くことが出来ました。がっつりノートを取ったので全部書き起こしたろうかと思ったのですが、XDのtwitter公式アカウントによる講演のまとめがあったので、講演の中で個人的に印象に残ったところだけをば。(※以下、敬称略)
登壇者紹介
田川欣哉(たがわ きんや)
takram design engineering 代表。「デザインエンジニアリング」というデザインとエンジニアリングを融合した新しい製品開発手法を実践している。
takramやデザインエンジニアリングについての詳細はこのインタビュー などが参考になるかと思います。デザインと工学との両方の部門で有名な方ですね。
筧裕介(かけい ゆうすけ)
issue+designプロジェクト代表者2008年より、神戸市と協力し「震災+design」をテーマにissue+designプロジェクトを開始。社会課題にデザインの力は何が出来るか、をテーマに、食の安全+design、少子化+design、震災復興+designなど毎年様々な課題を切り口に市民参加型のプロジェクトを通じてアウトプットを生み出している。
実は僕は2010年に行われた「自転車通勤+design」のワークショップに参加したことがあり、筧さんにお世話になった事があります(三年前のことなので向こうはもう覚えていないとは思いますが…)。issue+designはとてもおもしろい取り組みなので、よく知らないという方は是非公式ページの方を見てみてください。
加藤文俊(かとう ふみとし)
慶應義塾大学環境情報学部教授。コミュニケーション論、メディア論、定性的調査法を専門とする社会学者。2003年から「場のチカラプロジェクト」を主宰。学生たちとともに、様々なフィールドワークを主体に活動している。
今回の講演で初めて知った方ですが、墨東大学や三宅島大学などの架空の大学を地域の住民と共に作るプロジェクトや、会場で展示されていた研究室の学生の作品など面白かったです。
共創がこれからの課題
加藤:これまでのデザイナーは問題の発見から解決までの流れを一気通貫して行うことで、複雑で曖昧な問題を解決してきた。しかし一人でできる課題解決には限界がある。これからはデザイナーとそれぞれの分野の専門家との共創が重要であるが、その手法についてはまだ未知の領域。
筧:縦割りの組織や領域にどのようにデザインで横串を通していくかが課題。
重要なのはリテラシー
田川:デザインとは評価軸(問題)とそこにプロットされるもの(解決)を同時に作っていく作業。だからこそ、絶対的な評価軸がある受験勉強とは相性が悪い。学生へのデザイン教育だけでなく、それを評価する側、特に経営層のデザインリテラシーを高めていく事も重要。日本の経営層のデザインに対するリテラシーは海外に比べて遅れている。
学びに必要なのは順番より深度
田川:デザインとエンジニアリングのどちらから学び始めたら良いのか聞かれる事多いががあまり差が無いと感じる。何か一つのことをある段階まで極めた人は、未知の領域に相対した時でも、それを修得する方法や修得するまでに必要な時間を見極める事ができる自分のものさしを持っているから強い。
問題を発見するには?
筧:デザインは本質的な問題が何なのかを発見できたら八割は成功している。問題の発見に必要なのは人間力。人に興味を持ち続けること。
田川:発見した問題が本質的な問題なのかどうかを見極める事が重要。実際にプロトタイプを作って仮説がワークするかどうかを検証することを繰り返す。手を動かすことが問題の発見に役立つ。
デザイン教育に重要なこととは?
加藤:学生と一緒に過ごす時間を長くする事。現場と大学の往復を意識する事。学生と現地の人が「教える」事と「学ぶ」ことでつながるプロセスを作りたい。
筧:デザインは、社会のシステムの中に組み込まれ、ワークする必要があり、高度な設計が求められる。どうしたら社会の役に立つかを探し、考えられ続ける好奇心が重要。
田川:最低限のデザインリテラシーの教育は定期的なワークショップなどを行うことで身につけられる。専門的な人材を育生するデザイン教育は、今後より難しい領域に入っていくと思う。
感想まとめ:教育から共育へ?
先に述べたように、デザインは社会の状況に伴い、その評価軸自体が変わるような、まさに現在進行形で「動いている」分野であり、その教育方法についても「これこそが正しい手法だ」というのを確定しにくいと三者とも考えているようでした。デザインの評価軸をデザイナーだけが持つのではなく、社会が共有し、より良い課題解決を行っていくために、デザイナーとその他の領域のスペシャリストが共に学び、共に教えあうような形がこれからのデザイン教育に重要なのではないかと感じました。デザイン教育の手法についても、プロトタイプを用いてこまめな発見と検証を繰り返していくこと必要なのかもしれません。
今回の講演では、それぞれの領域で活躍されている三者共にこれからのデザインについて抱えるモヤモヤというか悩みみたいな部分がとても共感できて(特にデザインという言葉が氾濫している現状や、自分の仕事領域の説明の難しさ等)、またそれにまつわる具体的な話を色々と聞けて、プロでも同じようなところで悩んでるんだな!って思えたのが収穫でしたね。
参考図書
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takram:
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加藤文俊研究: